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コインロッカーの心臓

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好きな場所

夏の陽射しが燦々と照っている夏の日、小学校に上がった私は自らの意志で遊びに出ることが多くなった。夏休みに入って間もない頃、学校のプールから急いで帰宅するとプールバッグを玄関に放り投げた。「公園行ってくる!」と大声を出し、その勢いで湿っぽく蝉の鳴く道路を駆け抜けた。私は真っ先に滑り台へ向かう。まだ誰もいない。思わず口元がゆるむ。

夏休みに宿題が出ていた。「自分の好きなものを書きなさい」という宿題だ。私はそれをふと思い出し、笑顔になった。眼前にすべり口を迎えると、頂上まで一気に駆け上がる。私は階段が嫌いだった。角度をつけた場所を駆けるのが好きで、一段一段足を段に合わせるのは意気をせき止める感じでどうもだめだったのだ。頂上につくと勢いよく駆け下りた。下りた。しかし滑り台は終わらなかった。私は全速力で足を動かした。動かしたのではなく、動いてしまったのだ。周囲は乾き切らない内に風に吹かれた水彩画のようににじんでいく。若干の恐怖心に苛まれながらもその加速とそれからくる爽快感に得も言われぬ快楽を感じていた。

滑り台は私の興奮と共に止むこと無かった。しかし脳裏を過ぎる母の顔ではっと我に帰った。眉間にしわを寄せ口をへにするその顔を思い出すと一時的に沈鬱の念に覆われた。蝉の飛び立つ音が耳をつく。コンクリートの上で私の黒が嫌に映えていた。

反響 エッジ 浸透

海に行った。遠くて深い海に行った。もう真暗で、海があるのかどうかわからないくらいだったが、耳に遠く近く入ってくる波の砕ける音で確認できた。それだけで安心した。

月は細く出ていた。ほとんど糸みたいな月だった。だからこんなに真暗だったのかと、妙に納得した。キラキラと、海らしきところに白い糸が、揺らいでいた。月よりも綺麗だ。

私はさっきからずっと枕に顔を押し付けていた。何もかもが嫌で、しかし何が嫌なのかと聞かれると何が嫌なのかはわからなくて、とりあえず嫌だと思っていたいだけだった。無意味にスピノザの汎神論とかデカルトの方法的懐疑だとかを考えたりした。真暗というのは本当に黒なのか、などのくだらないことだ。そして海にたどり着いたのだった。

海に入ると、私はゆっくりとした眠りについた。

線路

最寄り駅を過ぎ、その隣の駅で下車した。ただ歩きたいという理由からである。
線路に沿っていれば大丈夫だろうという不確かではあるが最も有力な思考に基づき私は歩いていた。
高い柵につたが絡まり、線路はよく見えない。ふと、途切れたつたの間に伸びる、線路と平行な階段に気づいた。
私は足の向くままに駆け上がった。線路を横切るような橋で、そこは思ったより高かった。
風が強い。わすかなつたが揺れている。線路を見下ろした。
そこには私の影がなかった。怖くなって、足下を見た。影があった。私はずっと続く線路を見た。
果てが無く、先がどうなっているのか見当がつかない。
少なくとも私の目の前では平行に並んでぶれることなく続いている。
私は後ろを向くと、同じように線路を見下ろした。
私の影は無かったが、やはり線路はまっすぐ続いていた。
私は線路に対して垂直に向き、来た方とは逆の階段をゆっくり下りていった。

茶色い時間

今日は少し早めの帰路につくことができた。おかげで空はまだ橙色をほのかに垂らしたくらいである。
ただいま、と声を出さずに言う。と、いつものように部屋の置くから猫が急ぎ足で出てきた。
猫はしっぽを高くし、夕飯をせびってくる、が夕飯にはまだ早い。
カーテンの先からは少しの冷気と日の暖かい色が漏れる。
私は久々にアコースティックギターを触りたくなって、もうだいぶ弦が伸びすすけたギターを押入れから出してきた。
弦は少し錆付いて匂いからもそれがわかったが、まだ引いても平気そうな顔をしている。
一番上の弦を触ると、音は違えど前とあまり変わらない穏やかな重低音がゆっくりこぼれる。
手には微かに鉄の匂いがつき、指に食い込む弦の細かいしわを感じてそのままギターの穴の中に吸い込まれそうなきがした。
やわらかい栗色のギターが段々その色を濃くしていき、弦は私が弾くたびに細く震える。
音が揃うと、赤いグラデーションが綺麗だった。
部屋には、しっとりと弦の震える音が響く。
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