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コインロッカーの心臓

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彩光夢

夢をみた。誰もいないはずの町へ、パジャマのまま出ていく夢。
多分、動物と称されるような、寂しいものはいなかった。
自分の住む町なのに、妙に、古くさく感じる。
わたしは、見知らぬ町の見物客のようで、ゆっくりと、目に色を焼きつける。
街灯が、青白く辺りを染めている。
そこで、女の子に会った。
女の子は、とても大きかった。
大きくて、しかし、あまりにうつくしく、
わたしはひどく恐れたが、同時にひどく惹きつけられた。
女の子は、とても大きかった。
引力に耐え切れなくなった空が、ゆっくりと落ちてくる心地がした。
ちょうど、ベッドに入り目を閉じた後の、瞼の裏のような心地だ。
そしてわたしはキスをした。
やわらかくてかたい、均一なシャーベットのようなキス、
離別を予期する悲しみが押し寄せる。
わたしはリビングで目覚めた。
テレビはつけっぱなしで、
長い間ありとあらゆる光を黒で押さえつけ、危うい引力を保っていた。
部屋はいつもの空気で、わたしの肺まですぐに満たした。
テレビが放っている振れ幅の大きく狭い重高音は、空気を伝って、肺に入り込み、鮮やかなキスをした。
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糸でんわの途中で

スーっと、耳の中で落ち着いた音が流れる。
耳に当てた紙コップは、私の温度を奪いつつも、まだひんやりとした感触を持つ。
今、耳に入り血管を伝ってくるこの音は、彼女の脈動だろうか、
だとしたら、お互いに耳を当てているのか、おかしなでんわだ。
おそらく、長く続くこの脈動を彼女も感じ、脈を絶ちきれずにいて、
廊下を抜ける空気は、ゆっくりと輪郭を、もしくは糸をなぞっている。
コップはぴんと引っ張られ、微妙なバランスを保つ、体の一部のように。
小さい頃もこんな感覚になっただろうか。私は糸の先を見た。
白く光る糸が、薄暗く、灰色を流したような校舎によく映え、ゆったりと直線を描く。
紙コップは、その先で、小さく廊下を向いて座っていた。
廊下には、ずっと、私の脈動が響いている。

繊細 エッジ 浸透

海に行った。遠くて深い海に行った。もう真暗で、海があるのかどうかわからないくらいだったが、耳に遠く近く入ってくる波のくだける音で確認できた。それだけで安心した。

月は細く出ていた。ほとんど糸みたいなつきだった。だからこんなに真暗だったのかと、妙に納得した。私はゆっくりとまばたきをし、海を確かめた。微かな光の層が私を包んだ。

私はさっきからずっと枕に顔を押し付けていた。呼吸をする度に中のビーズがざわめき合い、その音は気持ちよく耳の穴に染み込んでいった。ただ漠然とスピノザの汎神論とか、デカルトの方法的懐疑だとかを考えたりして、真暗というのは本当に黒なのかなどのくだらない問答を繰り返す。そして海にたどり着いた。
海に入る。すっと冷気が皮膚を覆い、内膜を抜けて喉や肺や胃を満たしていく。
目を閉じて、私はそのまま眠りについた。

染みわたる

買ってきたばかりのマニキュアは少し甘みがある。それでいて、鼻の奥をすっと通る。
私はふらふらと、次第になれていく。筆先にはパールのふくらみがあり、爪にしっとりと浸透していく。
色の無い楕円は、冷たく、ほのかに赤を帯び、そのたび、私は指先に熱を感じる。
最後の小さい円を繊細になでると、少し震える左手でゆっくりと筆をもった。
不器用に、ゆっくり、透き通る赤い色に染まっていく。
私はまるで初めて見るように、自分の指をやさしく広げて見た。
潤いを手に入れた私の鮮やかな爪は、ぎらぎらと、まるで病気のようだった。
有機的な匂いが鋭く鼻を刺し、わたしはたまらず、手の指を、手を掴み、固まりかけのどろっとした厚みを抉り取る。手は重みを増し、プラスチックのようなかたまりはじっとりと手を包む。
無数のしわの間には、じわりと赤が染みわたる。

好きな場所

夏の陽射しが燦々と照っている夏の日、小学校に上がった私は自らの意志で遊びに出ることが多くなった。夏休みに入って間もない頃、学校のプールから急いで帰宅するとプールバッグを玄関に放り投げた。「公園行ってくる!」と大声を出し、その勢いで湿っぽく蝉の鳴く道路を駆け抜けた。私は真っ先に滑り台へ向かう。まだ誰もいない。思わず口元がゆるむ。

夏休みに宿題が出ていた。「自分の好きなものを書きなさい」という宿題だ。私はそれをふと思い出し、笑顔になった。眼前にすべり口を迎えると、頂上まで一気に駆け上がる。私は階段が嫌いだった。角度をつけた場所を駆けるのが好きで、一段一段足を段に合わせるのは意気をせき止める感じでどうもだめだったのだ。頂上につくと勢いよく駆け下りた。下りた。しかし滑り台は終わらなかった。私は全速力で足を動かした。動かしたのではなく、動いてしまったのだ。周囲は乾き切らない内に風に吹かれた水彩画のようににじんでいく。若干の恐怖心に苛まれながらもその加速とそれからくる爽快感に得も言われぬ快楽を感じていた。

滑り台は私の興奮と共に止むこと無かった。しかし脳裏を過ぎる母の顔ではっと我に帰った。眉間にしわを寄せ口をへにするその顔を思い出すと一時的に沈鬱の念に覆われた。蝉の飛び立つ音が耳をつく。コンクリートの上で私の黒が嫌に映えていた。
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