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コインロッカーの心臓

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反響 エッジ 浸透

海に行った。遠くて深い海に行った。もう真暗で、海があるのかどうかわからないくらいだったが、耳に遠く近く入ってくる波の砕ける音で確認できた。それだけで安心した。

月は細く出ていた。ほとんど糸みたいな月だった。だからこんなに真暗だったのかと、妙に納得した。キラキラと、海らしきところに白い糸が、揺らいでいた。月よりも綺麗だ。

私はさっきからずっと枕に顔を押し付けていた。何もかもが嫌で、しかし何が嫌なのかと聞かれると何が嫌なのかはわからなくて、とりあえず嫌だと思っていたいだけだった。無意味にスピノザの汎神論とかデカルトの方法的懐疑だとかを考えたりした。真暗というのは本当に黒なのか、などのくだらないことだ。そして海にたどり着いたのだった。

海に入ると、私はゆっくりとした眠りについた。
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線路

最寄り駅を過ぎ、その隣の駅で下車した。ただ歩きたいという理由からである。
線路に沿っていれば大丈夫だろうという不確かではあるが最も有力な思考に基づき私は歩いていた。
高い柵につたが絡まり、線路はよく見えない。ふと、途切れたつたの間に伸びる、線路と平行な階段に気づいた。
私は足の向くままに駆け上がった。線路を横切るような橋で、そこは思ったより高かった。
風が強い。わすかなつたが揺れている。線路を見下ろした。
そこには私の影がなかった。怖くなって、足下を見た。影があった。私はずっと続く線路を見た。
果てが無く、先がどうなっているのか見当がつかない。
少なくとも私の目の前では平行に並んでぶれることなく続いている。
私は後ろを向くと、同じように線路を見下ろした。
私の影は無かったが、やはり線路はまっすぐ続いていた。
私は線路に対して垂直に向き、来た方とは逆の階段をゆっくり下りていった。

茶色い時間

今日は少し早めの帰路につくことができた。おかげで空はまだ橙色をほのかに垂らしたくらいである。
ただいま、と声を出さずに言う。と、いつものように部屋の置くから猫が急ぎ足で出てきた。
猫はしっぽを高くし、夕飯をせびってくる、が夕飯にはまだ早い。
カーテンの先からは少しの冷気と日の暖かい色が漏れる。
私は久々にアコースティックギターを触りたくなって、もうだいぶ弦が伸びすすけたギターを押入れから出してきた。
弦は少し錆付いて匂いからもそれがわかったが、まだ引いても平気そうな顔をしている。
一番上の弦を触ると、音は違えど前とあまり変わらない穏やかな重低音がゆっくりこぼれる。
手には微かに鉄の匂いがつき、指に食い込む弦の細かいしわを感じてそのままギターの穴の中に吸い込まれそうなきがした。
やわらかい栗色のギターが段々その色を濃くしていき、弦は私が弾くたびに細く震える。
音が揃うと、赤いグラデーションが綺麗だった。
部屋には、しっとりと弦の震える音が響く。

反動形成

私は妹が好きです。妹も私を好きだと言い、私はそれをにこやかに聞いてうんうんと頷きます。日ごろの生活からしても、それは実に正当だと思います。たとえば、妹は私にお菓子をくれたり、遊びに誘ってくれたりします。そんな妹を見ていると、私は自然に笑みがこぼれます。頭をなでなでしたり、妹の欲しいものをあげたい、と思うのです。

私は妹が嫌いです。妹も私を嫌いだと言い、私はそれを無愛想に聞いてあっかんべーをします。いつも、こうです。だから私は妹が嫌だと思うことをします。たとえば、寝起き時の不機嫌な妹の背中をつついたり、連絡帳に落描きをしたりします。妹は悲しみを溜めてから一気に泣き出します。なんでこんな事をするんだ、やめてくれと言わんばかりのその泣き顔や泣き声を感じると、私はなぜだか楽しくなり、たまらなく追い討ちをかけたくなります。

私を楽しくさせる妹の悲しみによって、私は妹が好きだと感じるのです。

レンガ

公園で、とても綺麗な花を見つけた。マリーゴールドという名札がつけられていて、その周辺はすっと鼻を通るような、優しく、心持ち酸味の利いた甘い香りで満たされている。その香りはあまりに清らかで、まさにマリーゴールドという名に相応しい。その花が美しく風景と慣れ親しむような輪郭を描くため、風景のすべてが整って見えた。

私は病気だった。医者には行っていないから原因はわからない。時々息苦しくなり、身体の中で何かが起こっているような症状が出る。考えるとそれは眼前にある風景に私が存在していると思い浮かべるときに出るようだった。

今もなんとなくそれを感じている。顔が熱を帯び、さらには心臓の音が全身の血管へ均等に打っているようだ。無意識に手は花の首下へ持っていかれ、私はゆっくりと美しい空気を吸い上げた。瞼には妙な重みを増し、やわらかい風が髪を揺らす。マリーゴールドは息苦しそうにこちらを見上げていた。何枚も重なった花弁。私は根元をぐっと掴み地からマリーゴールドをちぎり取ると、レンガの上に落として手近の石でぐりぐりと馴染ませた。
鮮やかなオレンジが葉とぶつかり湿り気を持ちながらへばりつく。石の間で鳴く声は細く愛らしい。きつく、酸味が強い匂いが青臭さと混じって漂う。繊細な葉脈は、花弁の繊維と複雑な模様を描き始めた。レンガの上でマリーゴールドは、次第に乾いた茶色へと変わり、染み付いていった。

私は医者に行った。そこには、真っ白い格好をした医師が堂々と座っていた。四角い部屋は薬品の匂いにまみれていて、私は息苦しかった。
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